2024年11月12日

【大学生の意識調査アンケート報告書を、敢えて批判的思考で眺めてみる】

【大学生の意識調査アンケート報告書を、敢えて批判的思考で眺めてみる】
 
横須賀市は2024年10月、若者の声を政策に生かすため大学生を対象とし今春実施した意識調査アンケートの結果を公表しました。「若者政策をやるにしても、まずは若者本人から話を聞いてください」と繰り返し言い続けてきた加藤ゆうすけとしても、とてもうれしい取り組みです。担当課の経営企画部都市戦略課は、議員になってから一番質疑を多く交わした部局の一つですが、いつも真剣に答えてくださる職員ばかりで、尊敬しています。
 
※報告書本文
https://drive.google.com/file/d/1TcoS2BNbe7KEwQVCzjODB3ZhR9ZGJ1nQ/view?usp=sharing
 
※報告書概要
https://drive.google.com/file/d/1vXmIhd4NqOeNxqEyyhH5ex6K3p4wwNTU/view?usp=sharing
 
 横須賀市としては、調査の結果を以下のように報告しています:
(1)大学生の幸福度は8 割以上
(2)幸せだと思う理由は、友人関係がトップ
(3)就職先選びは、職場環境を重視
(4)働き方は、自分のキャリアも大切に
(5)将来の結婚の希望は、現在の幸福感が影響
(6)子どもを持ちたいと思う人は、約7割
 
ですが今回、このブログのタイトルは「大学生の意識調査アンケート報告書を、敢えて批判的思考で眺めてみる」としています。これは、決して市の調査がダメダメだ、という話をするためではありません。市も記していますが、「アンケートを通じて得られた貴重なデータは、今後の政策や施策の立案に向けた基礎資料として活用」されるものなので、市の報告書には無い、他の視点もあるのではないか?という趣旨で、批判的思考で眺めようとするものです。
 
とりわけ、ジェンダー平等推進を掲げる私としては、ジェンダーによる影響の差に着目をします。性別情報をアンケート項目で取得・公表しているので、「こういう視点で調査・分析したならばどうだっただろうか?」という見方で、改めて、ジェンダーによる影響の差を考えてみることもできます。
 

■基本的な属性について

 まずは、本文p.41 基本的な属性について確認します。
 

●回答者の87.5%は市外在住である

 まず、重要な点ですが、本調査は横須賀市民の大学生に限定した調査ではないです。むしろ、回答者の8割超は、市外在住の大学生です。本件に関する11月7日の神奈川新聞の見出しが「大学生8割超『幸せ』 横須賀市が意識調査」だったので、そう思うのも無理はないかなと思うのですが、あくまでも「大学生の意識調査」であって、「横須賀市内の大学生の意識調査」ではない点に注意が必要です
 
 かつ、今回のアンケート対象者は、表紙に記されている通り、市と包括連携協定を結んでいる関東学院大学および神奈川大学の学生で、回答者の44.4%が経済学部、40.2%が法学部なので、「関東学院大学および神奈川大学の経済学部および法学部の学生の意識調査」といった背景が強いとも言えます。
 
学術論文の執筆を目的とした調査ではなく、政策立案の基礎資料として活用する、いってみれば「政策のアタリをつけるため」の調査なので、対象者の属性をよりランダムにするためにどこまで労力を割くべきかは難しいところです。包括連携協定があったからこそ、ここまで多くの件数の回収のご協力をいただけた側面もあるので、他の大学をどこまで含められるのかというのも、なかなか大変なところです。
 
ただ、文系(経済学部と法学部)で回答者の8割超なので、できればもう少し理系学部から多くのアンケートを回収できれば、文系と理系での意識の傾向の違いの有無を確認できたかも?とは思いますし、市内にも県立保健福祉大学、防衛大学校、神奈川歯科大学、市立看護専門学校、神奈川衛生学園専門学校といった、18-20代前半が在籍する各種学校がありますから、こちらにもお願いできれば、横須賀市内在住者はもう少し多く含まれたのではないか?市内在住と市外在住の大学生の比較の視点での分析もできたのではないか?とも思います。
 

 

●回答者の75.8%が男性である

 今回の回答者の75.8%が男性でした。これは今回の回答者の84.6%を占める「関東学院大学および神奈川大学の経済学部および法学部」のそもそもの男女比を見ると、全体の傾向に合っているので、特段男性に偏って意識的に多くアンケートを取った結果ではありません。


 
 ただ、「より女性が多い学部・コミュニティの大学生たちの意識調査だったら、結果は変わっただろうか?」という視点は、結果を読み解く上ではどこかで持っておく必要はあると思います。「男性が大多数のコミュニティで生活する女性の意見」と、「女性が大多数のコミュニティで生活する女性の意見」がどこかで異なるかもしれない、という観点です。
 
 

■アンケートの設計について

●「複数選択可」としたことを通じて、どのような傾向を把握したかったのかが今一つわからない

 全般的にいえることですが、「複数選択可」としたことを通じて、どのような傾向を把握したかったのかが今一つわかりません
たとえば、問8-2 あなたが将来、子どもをもちたくないとおもう理由としてあてはまるものを選んでください において、もしも、「複数選択可」ではなく、「上位から5位まで選んで、それぞれに順位をつけてください」とすれば、男女別の傾向の違いの有無がさらに容易に把握できます。もちろん、統計的に意味のある男女の違いなのかどうかというのは、厳密にいえばもっと設計段階で注意が必要なのですが、少なくとも「複数選択可」よりは、わかりやすい結果になってあらわれたかもしれません。
 

 
問10も同じことが言えます。「複数選択可」ですら、「身体的な負担」「精神的な負担」の項で女性がとても多いので、この結果からだけでも、子どもを持つにあたって身体的・精神的不安を取り除くことができると女性の大学生が思えるような政策が必要ということまでは十分にわかります。
ただ、「精神的な不安」を取り除く政策を優先するか、「身体的な不安」を取り除く政策を優先するか、という選択が必要な場面で役に立つ材料として、ちょっと設問を工夫するだけでもう一歩情報が得られたのではないかと思います。

 
 問3も同様です。もっとも、問3自体が、何を明らかにしたくて問うた設問なのかよくわからないというのはありますが、大学生の男女別で関心事の優先順位の違いが明確になれば、観光客の7割が40代以上で、観光客男女比は6:4で男性が多い(つまり平たく言えば観光客の多くがおじさん)横須賀市として、最も取りこぼしている若年女性に対する有効な政策が見つかるのかもしれません。

 
この他の設問にも同様の指摘ができますが、この辺にとどめます。
 

■「幸福度」について

●その結果を、幸福度と結び付けて論じることは妥当なのだろうか

 今回の結果を批判的に見る最大のポイントとして、「その結果を、幸福度と結び付けて論じることは妥当なのだろうか?」という点があります
 
 たとえば、問8「あなたは、将来、子どもを持ちたいと思いますか」の結果分析として、幸福感との関連性を、「幸せを感じている人は、将来子どもを持ちたいと思う人が多いため、子どもを望む気持ちは、幸福感の有無が影響していると思われる」と結んでいます。

 
問6「あなたは、将来、結婚したいと思いますか」の結果分析においても、「現在、幸せだと思っている人は、そう思わない人よりも、将来結婚したいと考える傾向が高く、結婚を望む気持ちには、現在の幸福感の有無が影響していると考えられる」としています。
 

 
 そもそも定義もよくわからない「幸福度」の把握なんぞできるわけがないだろうというツッコミはあるのですが、それをいったん脇に置いておくとしても、現在の「幸福度合い」と、将来の結婚・子育ての「希望度合い」との間には、さまざまな要素が関係するはずです。地方自治体の目的は「住民の福祉の増進」が目的なので、究極的には「住民を幸せにすること」ですから、幸福度とその他の物事との関連を調べようとするのは決して間違いではないのですが、「幸福度」というふわっとしたものを調べ、それと将来の結婚・子育ての「希望度合い」の関係性を論じるよりは、目の前に見える具体的な政策・施策との関係性を調べ、論じるほうが効果的ではないかな?と思います
 
目に見える政策は、市長が目に見える形で変えられますが、目に見えない「幸せ感」は、すぐには変えられませんからね。

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