2018年06月27日
【深圳視察報告 その1】(全3回)
5月30~6月2日の、深圳視察報告、お待たせしました。
…長くなっちゃったので、全3回でお届けします。
■第1回の内容
■1 人手に頼らないでよいものは、テクノロジーで解決し、本当に人が必要なところに人を増やそう
(1)労働人口減少による、人手不足感への対応
(2)公共サービスの提供において、行政以外の担い手を巻き込む視点
■2 深圳市の基本情報
(1)改革開放路線以後の39年間で出来上がった中国で一番新しいまち
(2)来了,就是深圳人(来れば誰でも深圳人)
【報告本文】
■1 人手に頼らないでよいものは、テクノロジーで解決し、本当に人が必要なところに人を増やそう
(1)労働人口減少による、人手不足感への対応
本市の人口は1993年をピークに減少に転じ、平成30年6月1日時点での推計人口は399,910人となり、40万人を切っている。2035年には、本市人口は33万7千人に減少し、人口に占める生産年齢人口は約19万1千人になると予測されている。市内企業の景況感[1]を見ても、既に人手不足感が慢性化している。今後数年続く大量定年退職を経て、さらなる労働人口減少局面を迎えるにあたって、人そのものを増やすことは、民間であれ、行政組織であれ、より困難になる。これまで人が担っていた業務の、テクノロジーを用いた自動化・システム化・高度化・効率化の必要性は高まる。
図1 「第3次横須賀市財政基本計画」(横須賀市、2018年2月),27p より引用
(2)公共サービスの提供において、行政以外の担い手を巻き込む視点
労働人口減少は市役所のサービス提供体制にも直接影響するため、行政以外の担い手を巻き込む視点も欠かせない。例えば、総延長1,400kmを超える本市管理の道路は、北部・中部・東部・西部の4つの地区に分け、4班計8名の職員のパトロールで日々点検・管理されているが、道路の補修に関する要望件数は2,765件(平成28年度)にも上る。現状でもかなりの忙しさだが、今後の社会インフラの老朽化に反比例するように厳しさを増す労働人口の減少は、こうした日常点検業務にも確実に影響を及ぼす。
近年、行政サービスの改良等を通じた地域課題解決を目的とし、市民がICTを活用し活動する動きが、「シビックテック(Civic Tech)」と称されている。シビックテックはまだ新しい単語であり、定義は分かれるところであるが、榎並(2018)は、シビックテックを「技術(特にIT)によってempower(強化)された市民が、これまで行政の領域と捉えられてきた地域や社会の課題に自発的に関わり解決に向けて活動すること、あるいはそのような活動をする市民」[2]としている。例えば、千葉市の「ちばレポ(ちば市民協働レポート)」[3]では、道路の破損や公園遊具の傷みなどを市民がスマホ等で撮影し、アプリケーションを通じて市へ報告する取り組みが行われている。休日でも報告可能である上に、位置情報も明確で、写真により状況の軽重の判断もつけやすく、行政業務の効率化に寄与している。横須賀市内では、Code for Yokosuka(テクノロジーを活用して横須賀をよりよい街にしていく活動を行う団体)が、市の公表している平成30年度一般会計予算をもとに、市民が横須賀市に支払った税金がどこで使われているのかを、閲覧者の世帯タイプ・年収に応じて疑似的に示す「Where does my money go?(税金はどこへ行った?)」[4]を開発するなど、シビックテックの萌芽がみられる。「ちばレポ」については、業務効率化に直接的に貢献している。また、後者の「Where does my money go?(税金はどこへ行った?)」も含め、その根底には、市民自身が、地域的・公共的課題の解決に向けて、行政や社会等に対して関心を抱き、何らかの行動を起こそうとする人を創出し、巻き込む意識があるといえる。
また、市民社会的な動き以外にも、民間企業と連携した公共サービス提供の高度化も図られつつある。本市においても、市上下水道局が2018年5月、株式会社NJS、JFEプラントエンジ株式会社と連携し、下水道設備の診断において、高精度かつ効率的な劣化診断技術の確立を目的とし、GPSが受信できない環境下でのUAV自律飛行[5]による画像データの取得デモンストレーションを国内で初めて実施するなど、公共サービスへのテクノロジーの実装が試みられつつある。
社会システムにテクノロジーを実装し、自動化・システム化・高度化・効率化を図ることが、「人手に頼らないでよいものは、テクノロジーで解決し、本当に人が必要なところに人を増やす」ことにつながると私は考えている。以上が、今回、深圳市を訪れた理由である。
■2 深圳市の基本情報
(1)改革開放路線以後の39年間で出来上がった中国で一番新しいまち
深圳市は元来、宝安県という一集落でしかなかったが、香港と隣接する地理的な重要性から、鄧小平が宝安県を深圳市として昇格させ、翌80年に改革開放路線を採用する中で経済特区に指定されたことで、わずか39年間の間に急速に発展を遂げた。常住人口は、1979年の31.41万人から、2016年には1190.84万人へと急激に増加しており、実際の管理人口規模は約2,000万人とされる[6]。特に、2014年から毎年約60万人の急増を見せており、中国国内で最も人口吸引力の高い都市である[7]とも言われている(図2)。平均年齢は約32歳、高齢化率は約3%とも言われ、国中の挑戦者を惹きつける移民都市である。
|
(2)来了,就是深圳人(来れば誰でも深圳人)
改革開放路線以後の39年間で、現在の深圳市のほとんど全てが形成されたと言っても過言ではない。それゆえに、「現地人」という感覚よりは、「深圳に来れば誰でも深圳人」として、挑戦者を受け入れ続けている。歴史があるまちに特有の、しがらみや、既得権益よりも、新しいものを生み出す熱意が最優先される雰囲気がある。特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願の件数は、深圳市からの2017年の出願件数が20,457件で国内件数の43%を占めており、第一位[8]である。挑戦者の旺盛な発明意欲により、日夜新しい財やサービスが開発され、それが又新たな挑戦者を呼び込んでいる。
|
深圳市の旺盛な発明意欲・起業家精神は、国策にも応援され、速度を上げている。2014年に天津で開催されたダボス会議において、温家宝首相(当時)が述べたスローガン「大衆創業、万衆創新」(訳:大衆による起業、民衆によるイノベーション)、および2015年に国務院が発表した「大衆創業万衆創新を推進する政策に関する意見」は、「双創」(訳:二つの「創」)というキーワードを生み出し、スタートアップ・エコシステムの構築を応援している。根底には、新卒大学生・出稼ぎ労働者・退役軍人などの就職先を生み出さねばならないという圧力があり、労働人口の減少に悩まされる本市ならびに日本の状況とは異なるものの、行く先を予測し計画することが難しい現代における政府の役割として、イノベーションを生み出す起業家の必要性に対する認識は、日本よりはるかに強い。
[1] 「横須賀市中小企業景況リポート 第22号」(横須賀市、2018年4月)によれば、全業種の「雇用人員」に関するDI値は△34であり、前期(2017年10-12月)の△31から改善が見られず、市内中小企業の人手不足感が解消していないことがわかる。
[2]「シビックテックに関する研究 ―ITで強化された市民と行政との関係性について―」(榎並利博、2018年)
[3] 参考「ちばレポとは」https://chibarepo.secure.force.com/CBC_VF_WebBasicPhilosophy 2018年6月25日最終アクセス
[4] 「Where does my money go?(税金はどこへ行った?)」http://orezeni.codeforyokosuka.org/
[5] UAV(Unmanned Aerial Vehicle)。いわゆるドローンのこと。
[6] 「深圳統計年鑑2017」
[7] 「2017年度中国城市研究报告」(百度、2018年1月)
[8] 新華網,2018年4月26日、http://www.xinhuanet.com/2018-04/26/c_1122748886.htm